


阿波國風土記 編輯纂
<筑波大学図書館蔵書 見開きNO-101~103右>
② 山崎村天村雲神社 祭神天村雲命伊自波夜姫命 二座
③ 此社詰座の祠ハ字雲宮同所祠とあり是号謂神沫名代
④ と云ふとのかや 天村雲神社御詰座の地を雲宮云ハ
⑤ 出雲の国素戔の里の教なるべしと思ひけらしも世の
⑥ 此社のいわれを尋ぬるに 皇御孫尊日向の国高千穂の
⑦ 槵觸姿に降臨の沫時沫共の水悪しく命に依しく
⑧ 天村雲命二度天上しられ高皇産霊尊より玉壷
⑨ に天眞名井の水を盛り授り又天降り水合せを
(m102/R)
① 世しに忽ち水□たり捕りの水ハ何れの地にても悪き水
② にハ天真井の水と咒ひ合ぬれバ水よくなる也との教
③ を受て□ひ主たり又此御神外宮豊受太神□の
④ 御神供の泉に合して吉水とな世しとなり今此社に
⑤ 井泉あり民家に井を穿ち此廟のをハ皆此社の水を
⑥ 戴き水合世する也此社の前に戦池と云あり天明四年
⑦ 池の水沼になり紙糸の教赤く保けるを国君写に
⑧ 御家来江口仁右衛門 笠井想左衛門直人□桶に汲帰り
⑨ 献上せし事あり又寶歴年局此池に珪合戦
(m102/L)
① 他方群集世し事阿り右南変池の水赤く成
② 是時奉仕の神主村雲□左史 社の水を汲て咒シテ
③ 池に入れしに忽水澄たりと□此写往古は四丁四方
④ なりしと云彼くあり是此の四方□の立石□筋と
⑤ いふ所に在り□由来久しき沫社なりとゾ
⑥ かく□なる令あれバ天村雲の社ハ此社に限れり
⑦ 前の件の如く此御神二度天上せし謂にて亦の御名を
⑧ 二上命と云又□□村の内湯立といふ地射立の郷
⑨ 名の捕りと云大なる楠の木往古阿りしを忌部の大社の
(m103/R)
① 丘より弓をいて此神射たまひ彼楠を射通したりと
② 云彼くあり其いわれにて此神の御別郷を射立
③ 神とも申し来るなりかくかくし由緒阿る事
④ ならんかし
(現代訳)
(101/L)②〜⑨
山崎村の天村雲神社。祭神は天村雲命・伊自波夜姫命の二座。
この社の「詰座」の祠は、同じ場所を「雲宮」とも書き、神の「沫(あわ)」の名代だという。
天村雲神社の詰座の地を雲宮というのは、出雲国・素戔の里の教えに由来するのだろう、と世の人は思ったらしい。
この社の由来をたずねると、皇御孫尊が日向国高千穂の槵觸姿に降臨したとき、沫の時には沫ともいう水が悪くなり、命に差し障った。
そこで天村雲命は二度天上し、高皇産霊尊から玉壷に天真名井の水を盛って授けられ、再び天降って水を合わせた、という。
(102/R)①〜⑨
ところが世に言うには、忽ち水が□になった。捕りの水はどこの土地でも悪い水であるが、そこへ天真井の水を合わせて呪い合わせれば、水は良くなるという教えを受け、□ひ(呪い)を司るようになった。
またこの御神は、外宮の豊受太神□の御神供の泉に合わせて吉水となったともいい、いまこの社には井泉がある。
民家で井戸を掘るときも、この廟のことでは皆この社の水を戴き、水を合わせて用いる。
この社の前に戦池という池があり、天明四年、池の水が沼のようになって、紙糸(の教え)が赤く保けたので、国君が写にとらせ、御家来の江口仁右衛門・笠井想左衛門直人が□桶に汲んで持ち帰り献上したことがある。
また宝暦年局、この池に「珪合戦」があったという。
(102/L)①〜⑨
他方、人々が群集したことがあり、そのとき右南の変池の水が赤くなった。
その折、奉仕の神主である村雲□左史が社の水を汲み、呪して池に入れたところ、忽ち水が澄んだと□。
この写によれば、往古は四丁四方であったといい、これは四方□に立石□筋という所にあり、□由来の古い沫社であるという。
このような□なる令(しるし・理由)があるので、天村雲の社はこの社に限られるのだ。
前の件のとおり、この御神が二度天上したという謂(いいつたえ)によって、またの御名を二上命という。
また□□村の内に「湯立」という地があり、「射立の郷」という郷名の捕り(由来)だという。大きな楠の木が往古にあり、それを忌部の大社の……
(103/R)①〜④
丘から弓を射て、この神が射たまい、その楠を射通したという。
その由来によって、この神の御別郷を「射立神」とも申し伝えてきたのだろう。
このように由緒があることなのだろうか。
天村雲神社条(101〜103)トピック抽出
- 雲宮(詰座)という別称
天村雲神社には「詰座」の祠があり、同所を「雲宮」とも記す。神の「沫(あわ)」に関わる名代として説明され、出雲・素戔系の教えに由来すると語られる。 - 降臨と「水が悪くなる」異変
皇御孫尊の降臨時、「沫」の時には水が悪化して生命に障るとされる。ここで天村雲命が関与し、天上して高皇産霊尊から天真名井の水を授かり、天降して水を合わせて鎮めたという筋が立つ。 - 井泉・水合わせの実用化
社に井泉があり、民家の井戸にも社水を戴いて「水合わせ」を行うと記す。神話的因縁が、日常の水利用と結びつけられている。 - 戦池/変池の水異変と呪術処理
池の水が沼化・赤変する事件があり、神主が社水を汲み呪して池に入れると水が澄んだという。社の水が“悪水を良水へ戻す”力として反復される。 - 沫社・四丁四方・立石筋という場の記憶
往古は四丁四方で、四方の立石・筋状の地名を伴うと記され、由来の古い「沫社」とされる。地形・境界(四方)と祭祀記憶がセットで保存されている。 - 二度天上と別名「二上命」
天村雲命が二度天上したという伝承から、別名を「二上命」とする。神名が出来事(天上)に結びついて再命名される構造。 - 射立神(弓射ち)と郷名由来
大楠を神が射通したという伝承により、御別郷を「射立神」と呼ぶとする。地名・郷名の由来を、神の行為(弓射ち)で説明する終結部になっている。
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