
阿波國風土記 編輯纂
<筑波大学図書館蔵書 見開きNO-105>
(m105R)翻刻
①村なりとも□免かきし然ニ其社□廟に及て□其
②村ゝの理を述んに此麻植郡別枝村なる平名に
③王子権現と云社在是を右二座の祭神なりといふ
④然に此神社祭神 天水沼彦命 天水塞姫命
⑤此二神神名帳になき神にて更に櫺なし然るに日本記
⑥第一の□曰 天照日太神方知素戔嗚命素ヨリ有赤心便取其六
男以力日神之子使)天原即以日神所生三女神者
⑦使降居干葦原中国之宇佐嶋矣今在海北道中號曰道主貴
⑧是多紀理比賣命 狭依比賣命 多岐都比賣命此三柱之神
⑨ヲ三女神ト云三柱而禰道主貴なり此筑紫水沼君等祭神
⑩是也トアリ此水沼君の系の神ならんク又曰伊豆能賣神
(m105L)翻刻
①亦名速秋津比古亦曰速秋津比賣神此神の御子天水分神
②國之水分神紫之神水戸神也トアリぬれバ此御神ならん
③いづれにしても水を塞く神にして漢土の地にていえぞ□
④□王と□しき御神佐の神ならん然あれバ大ひなる池の及
⑤ち地ク又ハ芳の川などの如き川*の溢れ込雑傍なる比
⑥大地ニ在す神ならん此別枝村ハ平地より山にのぼる事十丁
⑦ものぼり亦四十町も山谷河をのぼり又三四町も山へのぼり
⑧たる廟にて忘ふ門合なりとハ思ひけらしぬ
⑨廟地村なる天足神社を此二神也と云ふなれ共此地ニハ
⑩池もなく又川より四五拾町も隔て南山の麓なり
m105 現代訳
(前段)
(前頁で)述べたところであるが、今ほどこの社についても、いずれの村に属するかという点については——
(105R)現代訳
この社は、どの村に属するものであっても、ともかく(さておき)、その社が廟に関わるものである以上、各村々の事情を述べる必要がある。
そこで述べるに、この社は麻植郡の別枝村に属する平名という地にあり、王子権現と称する社が存在する。これを右に挙げた二座の祭神であるという。
そして、この神社の祭神は天水沼彦命・天水塞姫命である。この二神は神名帳には記されていない神であり、他に特別な記載もない。
しかしながら、『日本書紀』第一巻には次のように記されている。
(以下、書紀引用)
天照日太神が素戔嗚命を計らい、赤き心ありとしてその六人の男子を取り、力ある日神の子として天原に遣わした。また、日神の生んだ三柱の女神を葦原中国の宇佐島に降し住まわせた。今、海北道の中にあり、これを道主貴と号する。
これが多紀理比賣命・狭依比賣命・多岐都比賣命の三柱の神であり、これらを三女神といい、道主貴である。これらは筑紫の水沼君らの祭神である。
以上のことから、この水沼君の系統の神であろうと考えられる。また、伊豆能賣神ともいう。
(105L)現代訳
また、速秋津比古とも名づけられ、あるいは速秋津比賣神ともいう。この神の御子が天水分神であり、国の水分神、紫の神、水戸神であるとされているので、この神もまたその御神であろう。
いずれにしても、水を塞ぎ治める神であり、中国の地において言うところの、□禹王と称されるような神である。
そのような神であるから、大きな池のある地、あるいは芳の川などのように、川が溢れ入り混じる辺りの広い土地に坐す神であろう。
しかし、この別枝村は、平地から山へ登ること十町ほど、さらに四十町ほども山谷や川を越えて登り、さらに三、四町ほど山へ入ったところにある社であり、忘れ去られた境界のような場所であると考えられていたらしい。
そのため、廟地村にある天足神社をこの二神であるという者もいるが、この地には池もなく、川からも四、五十町も隔たった南山の麓に位置している。
m105 トピック抽出
1. 社の所属不確定と村間関係
- 社がいずれの村に属するか定め難いという状況
- 複数村の事情を踏まえて説明する必要性
2. 王子権現と二座祭神
- 麻植郡別枝村・平名に所在する王子権現
- 二座の祭神として位置づけられる社
3. 天水沼彦命・天水塞姫命
- 当該社の主祭神
- 神名帳非掲載神である点
- 由来説明の不足と、その補完としての他資料参照
4. 『日本書紀』引用による系譜付与
- 書紀第一の引用を通じた神格の位置づけ
- 三女神(多紀理比賣・狭依比賣・多岐都比賣)と道主貴
- 筑紫水沼君との系譜的関係
- 伊豆能賣神名の提示
5. 水を司る神格(治水・水塞)
- 速秋津比古/速秋津比賣系譜
- 天水分神・国之水分神・水戸神という水神連鎖
- 水を塞ぎ治める機能の強調
6. 漢土比喩としての「□禹王」
- 中国(漢土)における治水神・禹王を引いた比喩
- 神名同定ではなく、神徳説明のための修辞
- □を残すことで距離感を保つ筆者の姿勢
7. 地形と神の坐すべき場所の不一致
- 本来想定される「池・大河沿いの地」と
- 実際の鎮座地(山間・隔絶地)との齟齬
- 別枝村の地勢詳細(距離・高低)
8. 天足神社比定説への反証
- 廟地村・天足神社を二神とする説の紹介
- 池・川から遠い立地を理由にした否定
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